IT記者会Report

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コワーキングとオープンマインド

 講演彩録「オープンソースカフェに行ってみた〜一般社団法人オープンビジネスソフトウェア協会会長・河村奨氏」(オープンソースソフトウェア協会:OSSAJ主催のミニセミナー)を第3回まで書いて、ほったらかしにしたままなのが気になっている。あと2回で完了とすることができるのだろうけれど、そうこうしている間に積み残しが溜まっていく。
 締切りに追われて記事を書くのは垂れ流しをしているような気がしてならなかったが、こうなると締切りがあったほうがいいようにも思われる。締め切りを過ぎてしまえば、積み残しは“宿題”ではなくなる。このままでは記事にする(かもしれない)と断りを入れた河村奨氏にも、イベントを主催したOSSAJおよび橋本明彦氏(Ruby Association)や能登末之氏(オープンテクノロジーズ)らにも失礼になる――そんなことを思っていた矢先、偶然にも中野秀男氏(帝塚山大学ITCセンター長)の案内でグランフロントOSAKA、なかでもナレッジサロンを取材する機会を得た。

 ナレッジサロンは大阪府大阪市JR西日本大阪市立大学大阪大学京都大学など産官学がタッグを組んで進められた「うめきた」再開発計画のなかで、ユニークな施設に位置づけられている。それは「グランフロントOSAKAに行ってきた」第4回にも書いたように、当初から「人と人が出会うことが新しい知的創造につながっていくヒューマン・ケミストリーの場」として設計されていることだ。
 大阪駅に隣接した高層ビルの中にあって、エントランスにはホテル並みのフロント。空中庭園を眺めながらカフェでゆったりと寛げる。席数270を配置したオープンスペースのほかに、オフィスや小会議室が用意されている。人と人の出会いを媒介する「コンシェルジュ」が常駐し、毎週木曜日には「ナレッジドナー(知の提供者)を囲むサロンが開かれる。ワーキングスペースのレイアウトは利用者が使いやすいように自分たちで決める。
 これだけのハードウェアとソフトウェアがあらかじめ用意されているにもかかわらず、利用料(会員費)は月9,450円/年10万5,000円と破格の安さだ。フリーランスのクリエイターやエンジニア、ライターなど「オフィスに縛られず仕事をする(ノマド)」ワーカーにとって、これ以上のオフィスはないだろう。河村氏が運営するオープンソースカフェは純民営(というか個人経営)、ナレッジサロンは半官半民の事業体を背景にオリックスが運営と、運営形態や規模は両極端に位置するが、ともに最近流行りの「コワーキングスペース」に分類していい。結果として、わずか3か月の内に2か所のコワーキングスペースと、ノマドという新しいワークスタイルを取材することになったわけだった。

 3月7日、講演が始まる前に河村氏と次のような会話をした。
 ――オープンソースカフェには基礎的なサークルというか団体というか、そういうのはないんですか?
河村 OpenCRMのユーザー会。オープンビジネスソフトウェア協会の母体でもあるんですが、その仲間がオープンソースカフェの中心ですね。
 ――ソフトウェア・エンジニアが多いんですね?
河村 そうですね。ソフトウェア技術者っていうのは、企業に務めていないと、いつも仕事する場所は自宅ということになって、他の技術者と会う機会がなくなってしまうんですよ。一緒に仕事をしないとしても、ちょっと分からないことを聞きたい、調べたいと思ったとき、仲間がいるかいないか。それって意外に大きな意味を持っているんです。メールで尋ねるという手もありますけど、仲間がいれば一緒にハイキングに行ったり、本業とは別の趣味の活動もできますし。
 ――なるほどね。実はIT記者会もフリーランスのライターが気軽に立ち寄って、隣り合わせで仕事をするなかから何か新しいプロジェクトが生まれればいいな、と思って事務所を確保したんです。ところが記者っていう職業柄、どうもお互いに持っているネタは公開したくない、知らないことを「知らない」「教えてくれ」といいにくい、そんなことから、残念ながらコワーキングスペースになっていないんですね。
河村 あ、それはもったいない。
 ――そうかもしれませんが、コワーキングスペースになるかならないか、結局はそこに集まる人のマインドの問題なんでしょうね。物理的な場所じゃなくて、運営の仕組みや方法などソフトウェアでもなくて、参加する人たちにオープンマインドがあるかどうか。オープンソース・ソフトウェアもソースコードを公開するかどうかだけじゃなくて、その背景にあるマインド。それが重要じゃないか、とね。
河村 なるほど。そうかもしれません。

 そうなのだ。
 「コワーキング・スペース」を名乗る施設は全国に200を超えるという。ナレッジサロンに限らず、そう名乗っていなくとも、主催者と利用者にオープンマインドがあれば、ヒューマンケミストリーはより大きな成果をあげるに違いない。