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シリコンバレー、その驚愕の姿 Silicon Valley Index 2013に見る産業集積地の実相(下)

経済Economy

 「雇用」「イノベーション」「起業家精神Entrepreneurship」「商業空間」「収入」という5つの項目に沿って沢山のデータが示されている。

□雇用 『シリコンバレーの雇用回復は州や全米の傾向よりも速い』という小見出しが付いている。
◯2011年から2012年(12月)で、この地域の雇用はサンマテオ郡とサンタクララ郡で3.6%上昇し、これは全米の1.7%よりも高い上昇率である。この12ヶ月で42,360人の雇用を加え、122万人の雇用をもたらした。
◯この雇用を2007年と比べると、全米で2.2%のマイナス、カリフォルニア州でも1.9%のマイナスなのに対し,サンマテオ郡とサンタクララ郡で4.6%、サンフランシスコで6.7%のプラスとなっている。
◯雇用の主な領域は、 「コミュニティ・コミュニケーション」77万人、「情報関連製品とサービス」30万人、「革新的で特化したサービス」 15万人、そのほか、「 製造業」「ビジネス・インフラストラクチャー」「ライフ・サイエンス」などである。2007年以来大きな傾向は変わっていないが、その内最初の3つの領域では雇用数が増加傾向にある。
◯失業率は人種・民族によって異なる。2011年の16才以上の住民で「アフリカ系アメリカ人」で10%、「ヒスパニック」9% 、「複合民族とその他」8% 、「白人」と「アジア系」がそれぞれ6%である(サンタクララ郡)。このうち「白人」は横ばいだが、他の人種・民族ではいづれも2010年より2011年は下がった。それでも2007年に比べるとまだまだ高率である。
◯失業率を学歴別に見ると、「高校卒業未満」が8.3%、「高校卒業」が最も高く9.8%、「カレッジ」が8.2%、「大学卒」が5.1%である(サンタクララ郡とサンマテオ郡)。「高校卒業」が若干上昇傾向になっている以外は下降傾向にある。それでも2007年と比べればいずれも2倍、あるいはそれ以上の高率である。
◯理工系の人材の内訳は、「コンピュータ関係」が54%、「物理学・工学」31%、「デザイン」7%、そのほか「生物」「航空宇宙」「数学」がそれぞれ数%となっている(サンタクララ郡とサンマテオ郡)。この比率は2000年から左程大きな変化は見られない。全米の分布と比べると、全米では「コンピュータ関係」が45%、「デザイン」が16%なので、コンピュータを中心としたシリコンバレーの地域性が際立っている。

イノベーション 小見出しは『労働生産性の向上が続いているが、特許登録はフラット、そしてベンチャー資本の投資は減衰している』となっている。
シリコンバレーでは2008年以来労働生産性あるいは労働者一人当たりの付加価値が上昇し続け、2012年に157,100 ドルという最高額になった。 その成長率は全米で0.9%なのに対し1.7%だった。
◯過去10年間の労働生産性の成長を見ると、全米で29%なのに対し、シリコンバレーでは47%だった。
シリコンバレーの2011年の特許登録数は全米の12.5%を占めた。これは前年比0.7%のダウンだった。登録数は13,520件で前年より200件近く多かった。
◯特許の内容は過去一貫して「コンピュータ」「データ処理」と「情報ストレージ」関連が多く、これらで39%を占めている。
シリコンバレーへのベンチャー資金の投資は2000年にサンフランシスコ分を合わせて390億$だったものが翌年暴落し2002年には13億$となった。その後回復は思わしくなく、毎年、100億$前後のペースを続けてきた。2012年にはシリコンバレーで65億$、サンフランシスコを加えた額で100億$弱のベンチャー投資があった。これは全米の38%程度に相当する。
ベンチャー資金の投資の内、一番多いのは「ソフトウェア」の分野で38%を占め、ここ4年間増加傾向にある。 

起業家精神Entrepreneurship この項目にはシリコンバレーの真骨頂とも言えるデータが並んでいる。
◯2000年から2003年と2009年から2011年に分けて、地域で起業する人の人口比が示されている。この2つの期間で、サンノゼサニーベールサンタクララのといったシリコンバレーの中央部ではわずかに減っている反面、それ以外のサンフランシスコなどのベイエリアカリフォルニア州、そして全米では著しく増加している。これは居住地による統計なので、むしろ起業が周辺に広がっているとも考えられる。2009年から2011年でシリコンバレー中心部で0.36%、周辺部で0.48%の人が起業している。
◯2007年に全米で272件のIPOがあり、そのうち23件がシリコンバレー企業だった。これが2008年には43件に激減し、シリコンバレー企業はたった2件だった。その後徐々に回復し、2012年に全米で128件、そのうち17件がシリコンバレー企業だった。これは全米のIPO件数の13%に相当する。またM&Aが2011年で1,100件、2012年の3四半期分で800件程度あり、これは全米の10%を超えている。
シリコンバレーのエンジェル投資は2007年以来一貫して増加傾向で、2012年の3四半期分で3,500万$だった。これにサンフランシスコ分を加えると5,500万$となり、カリフォルニア州の投資の55%に相当する。
 そのほかこの項目には、企業のこの地域への出入りや廃業の状況、従業員のまだいない企業数、小企業向け融資の状況などの統計がある。起業は活発だが、融資は停滞しているようである。

□商業空間 オフィスビルなどの商業用不動産のことである。経済状況で変動する指標だが、2011年、2012年はやや停滞していたようである。オフィス空間量は下降気味、賃料は安定といったところだ。

□収入 この項目には筆者のような日本人の感覚からは驚くべき数字が並んでいる。地域に内在する猛烈な格差、そして背後にある貧困が垣間見れる。
シリコンバレーサンタクララ郡およびサンマテオ郡)の一人あたりの収入は2012年で67,420$、これは全米の40,000$弱の水準からは69%も高い。その推移は上昇傾向だが2008年2009年の落ち込み以前の水準には戻していない。
◯人種・民族別では、「白人」約60,000$、「アジア系」約42,000$、「アフリカ系アメリカ人」約26,000%$,「複合民族とその他」約23,000$、「ヒスパニック」約19,000$と、驚くべき差がある。カリフォルニア州においても全米でもすべての分類で下降傾向なのに対し、シリコンバレーでは「白人」「アジア系」「複合民族とその他」の分類において上昇傾向である。一方「アフリカ系アメリカ人」が2009年から2011年でマイナス18%と激しく下降した。
◯世帯あたりの収入は2008年以来下降を続けている。2011年で85,000$と全米の約51,000$より67%も高い水準である。
 ・学歴別では、「高校卒業以下」で20,000$,「高校卒業」で30,000$、「カレッジ」で40,000$,「大学卒業」で約70,000$,「専門的な学位」で100,000$強である。2007年に比してすべての分類で下降傾向だが、「専門的な学位」のみ2009年より若干上昇している。
◯フォードスタンプ受給者が2012年、シリコンバレーで人口の5%、カリフォルニア州で10.5%、2000年以来上昇傾向にある。ちなみに2000年の受給者はシリコンバレーで1.6%,カリフォルニア州で4.8%だった。全米では2000年に6.1%、その後急増し2012年で14.8%である。
 全米の数値も高いが、あの輝かしい産業集積地でなおこの数値というのには、いかな自己責任の競争社会でも割り切れない気持ちになる。

 コンピュータあるいはソフトウェア、電気通信の領域で活動する者にとって、シリコンバレーは昔も今もとっても大きな存在だ。それは「輝ける太陽」であったり、大切な「ビジネス・パートナー」だったり、打ち負かすべき「ライバル」だったりしている。
 本稿は、このシリコンバレーの姿を伝えるインデックスのそのまた一部分の、いわばつまみ食いで、フェアではないかも知れないが、それでもこの多様性に富んだダイナミックな産業集積の姿を垣間見ることができる。この地域の表層的な事象にだけ着目して、モデルにしたり、パートナーを求めたり、あるいはライバル視しても得るものは少ないだろう。
 本稿で指摘したシリコンバレーの姿は、筆者の目には日本の産業環境の対極にある特異な地域に見えるが、かといって日本の環境が世界の標準というわけでもない。シリコンバレーの姿が、ある意味世界の産業集積の形を先導する典型例なのかも知れない。そういう意味で、この地域となんとか付き合って行くというだけでなく、その姿、その行く末を見つめて行くことがとても重要なように思われる。