IT記者会Report

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上海・紹興 見たまま聞いたまま(2)

 10月31日〜11月2日の講演録は別稿でレポートするとして、上海のあれこれを書く。建設ブームはまだ続いていた。一口に「上海市」と言っても、面積は東京23区より広く、人口は2,000万人を上回る。旧市街に始まった新都市開発の波は都心の繁華街に高層マンション群を生み、さらに近郊に広がる築30年超級の公営アパートに及んでいた。

 中心街から地下鉄で45分ほど北上した五角場(五叉路の意)には近未来都市の景色が出現していた。表て道りは片側2車線+二輪車専用レーン+幅3mの歩道だ。古い街を取り壊し高層ビルが次々に建つ。土地はすべて国有なので、都市計画はどんどん進められていく。不動産バブルの崩壊が懸念されるものの、全土で展開される新都市建設の波は止まりそうにない。
 国土が広いということもあるのだろうが、有無を言わせないトップダウン型の都市づくりの結果で、その都市計画は日本やアメリカから学び、不備を補う形で進められている。あちこちに職住近接のハイテクパーク―その中心に必ず大学が配置される―が建設され、そこに向かって鉄道や高速道路が延びていく。世界ソフトウェア品質会議が開かれた復旦大学もその一つだ。
 ――過剰投資にならないんですか?
 の質問には、
 ――われわれは日本の失敗に学んでいます。ですから失敗することはありません。
 という答えが返ってきた。
 ――それに、我われは何でもかんでも新しく作り替えようとはしていません。古い街並みはちゃんと残しています。遺跡としてでなく、生きた街として残すのです。
 
 自動車は高所得者の独占物ではなくなりつつあるものの、庶民の“自家用車”は依然として二輪車だ。朝になると一台に親子3人、4人が乗っている二輪車がしきりに行き交う。運転するお父さんの前に子どもが1人、後ろの荷物置きにお母さん、その背中に赤ちゃんという具合。それが車の流れを縫って走っていく。転倒でもしたら……と思わず心配てしまうほどだ。
 ただ、郊外に足を伸ばすと二輪車専用レーンが整備されている。「自転車は車道を走りましょう」と言ったって二輪車レーンがないのにどうするんだよ、のわが母国を考えると、中国は二輪車対策で先行している。
 前回は気がつかなかったが、意外に電動バイクが多い。音もなくスーッと走り抜けていく。エンジン音がしないので、二輪車が突然目の前を横切って行くのはちょっと怖い。排気ガスは出ないので一見すると環境にいいようだが、電動バイクが消費する電力を生み出すのに伴うCO2の排出量はどうなんだろう。
 毎日のように充電するのだから電気代もバカになるまい。中国の人は意外に豊なんだろうか、という筆者の疑問に福善上海の杉田義明氏が説明する。
 ――電池パックを会社に持ち込んで、仕事中に充電する人が多いんですよ。
 会社が電気代を負担することになるが、人手不足もあって黙認されているという。盗電の認識はないようだ。むしろ従業員の既得権になっているということなのだろう。日本だって会社が従業員の通勤費を負担しているのだからドッコイドッコイだが。
急速な都市化と人口集中は、極端な交通渋滞、偏重した物資と労働力の需給バランス、貧富の差の拡大、物価の上昇を生み出している。上海では昨年の世博(万博)で上昇した物価がさらに上昇し、庶民の生活は決して潤っていないように見えた。実際、上海市民の足となっているタクシー料金は1年間に2割ほど上がっていた。
 また、急速な高齢化と少子化の波が押し寄せている。少子化の原因は一人っ子政策だ。この政策によって中国は人口の爆発を抑制することができたが、漢民族にのみ適用したため民族間のパワーバランスが微妙に異なってきた。また跡継ぎは男の子で、財産を相続する代わりに親の面倒を見るという習慣が根強い。このため女の子の出生が激減し、男女比率の歪みが未婚男性の急増につながっているという。
 さらにいうと跡継ぎとして男の子を望む人が多いため、男児の誘拐・売買が横行する温床となっている。罰金を払えば第2子をもうけることができる制度のため、それが富裕層と貧困層の格差となって顕在化してきた。両親、両親の祖父母の「6つのポケット」があるため、いつまでも経済的に自立できないパラサイト・シングルの増加や婚外子が無戸籍となっているという話も耳にした。それが新しい社会不安を生み、秩序を乱しているといっていい。
 多民族国家という不安材料もある。今回、目に付いたのは西域系の少数民族だ。復旦大学に向かう地下鉄五角場駅を出たところでは、いかにもそれらしい顔立ちと民族衣装をまとった人が干しブドウを量り売りしていた。思わず井上靖の『敦煌』を思い出した。
宿泊したホテルの周辺には、目の部分だけ出した黒いブルカや色鮮やかなチェルドなどイスラム系の服装をした女性も歩いていた。上海・紹興WSの全行程で通訳を兼ねて付き合ってくれた福善上海の魯芳玉さんによると、前回の上海WSのとき(2010年7月)は世界博覧会が開催されていたので、少数民族は市街に出ることが抑制されていたのだそうだ。
日本で“スー族”(喫煙者)の肩身はどんどん狭くなっている。高い税金を払っているのに、なぜアルコールには甘いのか、酒は人を殺すがタバコで殺人事件は起こらない等々、“スー族”にも言い分はある。対して中国は“スー族”天国だった――というか、天国のはずだった。
 今回の上海行で驚いたのは、その中国で喫煙禁止条例が施行されていたことだった。レストランや駅、会議室、タクシーの中など多くの人が集まる公共の場は原則禁煙、喫煙所には「タバコを吸ってると寿命が縮むぞ」と脅すポスターが貼られている。実際は上海市内に限っての条例で、しかも規制はかなり緩い。歩行喫煙をとがめる視線はない。
 ――上海はニューヨークやロンドン、東京と並ぶ世界の一流都市を目指している。禁煙条例はその一環だが、あくまでも建前。税収を考えると厳格に規制はできない。
 なるほどの解説ではあるのだが、“一流”を目指すレストランは昨年3月の条例施行と同時に軒並み禁煙に踏み切った。ばかりでなく、筆者たちが食事をした杏花楼は庶民向け酒飯店だが、ここも禁煙。う〜ん、あと5年もすると上海も“スー族”の肩身が狭くなるのだろうか。