IT記者会Report

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SEA上海Forum2011 プロセス改善テーマに〜ソフトウェア品質をどう高めるか

 昨年10月30日〜11月7日、筆者は上海・復旦大学で開かれたソフトウェア工学関連の3つのイベント―第5回世界ソフトウェア品質会議(WSQC)、SEA上海Forum(ソフトウェア技術者協会主催)、紹興WorkShop(同)――に参加した。3か月も経ってだが、これを片付けないと先に進めない。読者にとっては「いまさら何だよ」かもしれないが、気儘勝手編集の特権を行使することにした。SEA上海Forumのあれやこれやを含めて報告する。

絶対品質よりSLA

 5th.WSQCオープニング・キーノートートナー(坂根正弘氏)の講演録はすでに採録した。そのあとの講演やワークショップの詳細をレポートしなかったのは、筆者がテーマを見つけることができなかったためだ。坂根氏に続いて壇上に立ったBernd Hindel氏(独メソッドパーク・ソフトウェア社)の講演内容は、ソフトウェア品質にかかわる工学的アプローチというよりSLA(Sirvice Lebel Agreement)の考え方に近かったように思えた。
ただ見方を変えれば、ソフトウェア品質に対する世界の認識は”バグゼロ”フィックスを目的としていないかもしれない。つまり開発者(ITベンダー)と利用者(発注者)の間でどのように品質の合意点を見つけていくか、それをどう合理的に説明できるかを目的としているかもしれない、ということだ。
 ”バグゼロ”の「絶対品質」が求められる日本のソフトウェア工学の実践的な取組みは、世界から見るとひょっとすると少数派の見解であるかもしれない。過剰な品質要求の一方に厳然と存在する労務提供型のソフトウェア開発という矛盾した現実が、ソフトウェア工学の実践を阻害する原因になっていると言えなくもない。

中国の若手技術者が意欲

 もう一つ気がついたのは、中国(上海周辺)の若い世代(学生を含む)がソフトウェア工学またはソフトウェア品質管理に強い関心を持っていることだ。WSQCの会場に20代の参加者が少なくとも3割はいたように記憶している。
 主催者によると「ホストである中国の参加者には参加料を格安に設定していること、学生の場合はほぼ無料に近い」という。それも要因の一つには違いないが、仮に無料だったとしても実際に足を運び自分の時間を使うという能動的な行為は関心があればこそだろう。
 中国は国を挙げてソフトウェア技術者の育成に取り組んでおり、毎年4万人以上が工学的手法を学んでいるという。実際、WSQCでも中国の学生や若手技術者が論文発表を行っていた。実戦経験の浅さや論文発表の経験値のために所定時間をたっぷり残して終わってしまうケースもあった。しかし若いときの失敗はいい経験になる。10年後、彼我の格差がどれほどに広がっているか、想像するだけで恐ろしい。
 救いだったのは、日本からの論文発表セッションが16と全体の約3割を占め、そのうちデンソー技研センターの「日本におけるSPIの最新動向〜派生開発(XDDP)への取組み」が最優秀論文賞に選ばれたこと。さすがにITの利活用と工学的アプローチの実践で一日の長があるということだろうか。
 ※SPI:Software Process Improvement