IT記者会Report

オリジナルな記事や送られてきたニュースリリース、セミナーのプレゼン資料など

浜口友一氏(情報サービス産業協会会長) 動くときは動くよ〜まずは会員の意見を集約(3)

「誰でもいい」では困る

 ――その理屈はこの際スパッと捨てて、まず切り分ける。その上で雇用と要員調達の柔軟性をどう確保していくかを考える。こういう考え方、どう思われます?
浜口 考え方は分かりますよ。でも、急激な改革はどうかな。それと個人事業者という選択肢を残すべきじゃない?
 ――もともとソフトウェアは個人の力量にかかわるもので、組織でやるのは大規模なプログラム作成作業。その意味でもソフトウェア業とIT技術者派遣業の区分があっていい。派遣が必要だというなら、何重派遣だろうがOKにして、その代わり健全なIT技術者派遣業を育てる。というのは3次請け、4次請けにも優秀なエンジニアがいたら、その人にやってほしいということもあるわけだから。
浜口 派遣法がソフトウェアや情報システムの開発を一般の製造業と同じように扱っている。そこに無理があるわけですよ。ソフトウェアの世界では、ただボルトを締めているわけじゃない。
 ――ITの派遣はとっかえ自由というわけにいかないし、代わりを育てるのに最低でも3年はかかる。それはわかるけど、でも建前はそうだ、っていうだけですよね。昨日面接して、翌日にはシステム開発の現場に送り込んで、はい月額いくら、っていうやり方が成立しているんだから。誰でもいい、という現実があるわけだ。
浜口 誰でもいい、とは言わないけど、どういうわけか、そういう人でもチームにはまっちゃう。
 ――つまり誰でもいいんですよ。それと、もし技術者というんなら、彼らが知的労働者として扱われなきゃ。この不況で月額30万円代の下の方という極端な安値受注が飛び交っている。
浜口 月額30万円……。人月単価で話はしたくないけれど、それもまた現実に行われていることだから。この前、地方のソフト会社の方に、「言いにくいけれど、いま、あなた方は中国と競争しているんですよ」とお話した。得意分野はない、人がいるだけでは、より安上がりなオフショアで、という考え方になってしまう。
 ――いまのお話は、〈地域のITベンダーを育成すべきか〉という設問にも関連する。「YES」が63.5%、「NO」が23.5%でした。
浜口 建前上の答は「YES」ですよ。でもプログラム作りだけ取り上げたら、別に地域のITベンダーを育成しなくてもいいかもしれない。
 ――地方を切り捨てるのは簡単だけど、リソースの配置というか、この国の情報システムを円滑に運営していくのに必要な〈must〉の要員数を設定しないと、あとで慌てることになるかもしれない。
浜口 国としてやるべきことの一つでしょうね。
 ――韓国のように、地域で発生したIT需要の3分の2を、必ず地域のベンダーに発注するとか。
浜口 それは現実的じゃない。自治体や地銀のシステムを一括で請負える地域のベンダーがどれほどあるか。メガ級のシステム開発で、地域のITベンダーと例えば当社のような会社が手を組むような仕組み。それを通じて地域のITベンダーが自立できる環境を整えていくのがいいんじゃないかな。
 ――もう一つ、「SES」と呼ばれる契約がある。「ソフトウェア・エンジニアリング・サービス」っていう訳の分からない契約。
浜口 鵺(ぬえ)のような(笑)。ソフトウェア・エンジニアリングといいながら、サービスっていうのはね。
 ――誰が考えたか知りませんが、発注者に有利なようにうまくできている。
浜口 発注側にとっても扱いにくいんですよ。請負じゃないけれど、さりとて派遣でもない。残業とか休日出勤とか、直接指示できないから。
 ――それは法律的な解釈の話でしょう。現場では発注者が作業を指示しているし、派遣のさらに下の扱いじゃないですか。SES契約で派遣されている人に拒否権なんかない。「いやです」と言った瞬間に契約を切られるか、他の人に代えられちゃう。毎月の契約更新ですから、途中解約にはならない。
浜口 現場の実際はそういうこともあるだろうね。
 ――あれはIT技術者を奴隷のように使う仕組みです。その人が本当の技術者か、という問題はありますが。契約上の規定時間が月180時間、200時間ということもある。
浜口 それじゃ技術者が疲弊しちゃうだけだもんね。
 ――1年の半分は規定時間をクリアできない。それがピンハネと結びついている。
ピンハネ」に異論あり

浜口 ちょっと待って。「ピンハネ」という言葉には抵抗がある。
 ――ユーザーからの受注額の3割、4割を有無を言わせず取っているとしたらどうですか?
浜口 それは、まぁピンハネと言われても仕方がないけど。でもそんなにひどいことはないでしょう。
 ――とんでもない。わたしが北海道から九州まで取材した約30社のソフト会社が異口同音に同じことを話している。彼らが口裏を合わせて嘘を言っている、ということになりますよ?
浜口 それには異論があるな。管理費の中には、リスク負担やR&D費も含んでいる。どうしたって管理費が18%ぐらい必要なことは、プライムで受注してみれば分かる。
 ――再びお言葉ですが(笑)、プライムのベンダーが固定化している現実があるわけです。発注者側にも問題があるけれど。管理料の概要を業界大手が率先して公開して、それが納得できるものなら下請のソフト会社や技術者から怨嗟の声はあまり出ないかもしれない。
浜口 う〜ん。そのあたりは協会でちゃんと確認してみましょう。そんなにひどいとは思えないがなぁ。
 ――で、SESに話を戻すと、規定時間に達さないと、時間精算で引いてしまう。年末年始、連休、夏休みと数えると、1年の半分は規定時間に達さない。もともと絶対に契約上の月額に達さないように設定されている。これをまず改めないと、どうしようもない。
浜口 もっといい条件の会社に移ればいい、っていう反論は必ずあるよね。情報処理技術者資格を取るとかして。
 ――それは仰るとおり。仕事は期待したほどじゃないし、連絡なく休むし、向上意欲もない人が少なくない。でも業界がそういう人たちを便利に使っているのも事実ですよ。これを放置しておいて、業界のイメージアップなんて、話が通らんでしょう。
浜口 たしかにそういうところから改善していかないと、イカンよね。
 ――最低価格制度についてはどうですか。自由競争の経済原理を揺るがすので反対、という人も少なくなかったんですが。
浜口 建設業の職種別最低日当制度。あれは公共事業の積算の目安という位置づけじゃないの?
 ――そうともいえないようです。雨で工事が中止になったときとか、資材が間に合わなかったときとか、民間の工事にも適用されていると聞いています。水道工事をやっている友人がいましてね、彼がそう話してました。
浜口 この業界ではね、意外と上流工程では目安になる価格があるんです。だいたいの相場感です。問題はプログラミング、コーディングの実作業レベルです。これはね、ケイパビリティをどう“見せる化”するかっていう話ですよね。それと契約をすべて一括請負にするのがいいことか、という議論はありますね。米国なんかでは、下流工程も時間精算ということがあるようですしね。
 ――“見える化”“見せる化”の努力と価額が連動して、かつ契約がちゃんと守られるなら、時間精算でも一括請負でもいい。契約はあっても発注書がないと事実上の契約解除、なんてことが当り前に行われている。納期が過ぎてユーザーが検収でOKを出しているのに、プライムがOKをくれずに後出しジャンケンで値引きを要求するなんていうケースもある。これまでと同じ仕事なのに、契約解除をちらつかせながら20%の値引きを要求する。こういうのって、下請法違反でしょ?
浜口 そうね。それが事実とすれば違反ですね。でも、だったら訴えればいいじゃない。
 ――訴えたりしたら、次の仕事がこなくなる。それで下請けは泣き寝入りしているんです。
浜口 ふ〜ん、そりゃちょっと問題だな。この場では何ともいえないけれど、ちょっと研究する時間をください。
歯がゆいかもしれないが……
 ――ここで答えを出せ、と迫る気はないんです。ただ、そういうことを業界大手の集まりのJISAが把握して、それを総括して、改善の筋道を示すなら、「10年先の業界ビジョン」はアリなんですよ。業界団体なんだから、業界全体を見渡してもらわないと。
浜口 仰るとおりなんだけど、協会は会員企業の色んな意見を集約することが前提。新政権がスタートしたのにJISAは何をもたもたしてるんだ、と歯がゆいかもしれないけれど、じっくり取り組むし、動くときは動くつもりなんで、もうちょっと時間をください。
 ――これ以上、嫌われるのも何だし。今日はこんなところで矛を収めましょうかね(笑)。