IT記者会Report

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浜口友一氏(情報サービス産業協会会長)(1)

動くときは動くよ〜まずは会員の意見を集約

 「新政権に期待すること」アンケートの集計結果をもとにしたインタビュー。その第一弾に、情報サービス産業協会(JISA)会長の浜口友一氏が登場というのは、JISAコンベンション(10月7日)を計ったわけではない。タイミングの妙、全くの偶然である。なまくら刀ゆえ、渾身の切り込みも見事に受けられてしまったが、言葉の端々に何か決意を秘めているような。そのニュアンスをどこまで表現できるか。「オフレコ」の話はいずれの機会に。(企業名、役職はいずれも当時)


受託体質が染み付いている

 ――今回のアンケートの回答集計はWeb版でも公開しているのでお読みいただいたと思います。
浜口 うん、読ませていただきました。
 ――ありがとうございます。この前、協会の新しい事務局に行ったら、当面はアクションを起こす考えはないようなニュアンスだった。これはちょっとマズイ、と思ったわけです。それでお時間をいただいた。
浜口 いや、やらないというんじゃないけれど、短兵急な行動は拙速になるんじゃないかということで、そろそろ会員企業の意見交換が始まると思います。
 ――ま、そのことは追い追い、ということにして、今回のアンケートで興味があったのは、「NO」の回答がどれくらい出るかな、ということでした。回答総数が570件ほど、有効回答が500件足らずなので、ちょっと迫力がないけれど、おおまかな傾向は分かる、という感じでしょうか。
浜口 で、これ、記事にするの?
 ――しないと思います?
浜口 じゃ、迂闊なことはいえないな。
 ――いやいや、どんどん迂闊なことを話してもらって……(笑)。
浜口 回答率はどれくらい?
 ――調査票を送ったのは約5,300ですから1割ちょっと。御社(NTTデータ)を含めて、業界大手からの回答がほとんどなかった。
浜口 2割ぐらい行かないとなぁ。わたしは(JISAの)会長という立場上、あえて回答しなかった。でも、どういう結果が出るか、楽しみにしてました。
 ――今回のアンケートを協会がやっていれば、回答率はもっと上ったかもしれません。政権が交代して、これまでと何かが変わるというときに、それでも沈黙しているっていうのは、ちょっと不思議です。
浜口 お客さんの言うとおりにしていればいいということに慣れすぎて、自分から発言していく習慣が身についていないのかもしれない。
 ――諦めと閉塞感が充満している、と感じます。「どうせ何を言ったって無駄だし」みたいな。
浜口 それはね、お客さんが上位にいて、受託する側が下っていう意識が強いんだな。アメリカでも中国でも、仕事上の立場と別に、意見は意見として発言しますからね。
 ――6月に行われたJISAの正副会長会見で、日経ソリューションビジネスの中村編集長(建介氏)が景況をどう見るかと質問したとき、副会長が「当社の場合は……」と回答した。
浜口 うん、したした(笑)。あのときは皆さん、まだ慣れていなかったからね、大目に見てもらいたい。
 ――それでわたしが、決算説明会みたいだ、って皮肉を言った。
浜口 言ってましたね。そのご指摘はよく分かりますよ。ジイサン産業協会なんていうご指摘もありました(笑)。
 ――断っておきますが、それはわたしの発言じゃないですよ(笑)。でもそれもこれも一緒になって、わたしの評判がまた悪くなったらしい。
浜口 佃さんにはそういう役回りだと思ってもらって、業界に苦言を呈してもらう。

新政権でIT担当は誰か

 ――で、話を新政権に移しますけど、今回の総選挙に当たって、主要な政党のマニュフェストを読んだところ、「IT」については一言もない。そういうなかで、新政権で誰がITを担当するのかも分からない。
浜口 IT担当大臣はいないし。ほんとに誰がやるんだろう。
 ――経産省政務官になった近藤洋介さんがだいぶ情報サービス業に詳しいと聞いています。NTT関連企業やIT関連企業の出身という議員もいる。でも、個々の議員がどう考えるかだけじゃだめで、国家戦略室というか局というか、その姿がまだ見えない。
浜口 何もかも菅さんというわけにはいかないしね。
 ――国会議員のどなたが担当されるかもそうなんだけど、官僚として誰が戦略室に行くかもポイントですね。課長、課長補佐クラスに探りを入れると、なかには「声はかかったけれど断った」という人もいて、得心して行くという状態にはなっていないみたいです。
浜口 そりゃ、あれだけボカスカやられちゃってればね。みんな引いちゃう。我われも向こう3か月ぐらいは様子見見、というか、どんな政策が出てくるか期待していようと。
 ――しかし、そうこうしているうちに来年度予算が決まっていく。税制のお願いをしているだけでいいんですか。
浜口 税制と振興策ね。これまではそれでよかった。じゃ、これからもそれでいいか、となると違うかもしれない。
 ――聞いたところでは、JISAの政策委員会で意見交換をしましょうということになっているらしい。でも言い放しのガス抜きで終わっちゃうんじゃないですか。
浜口 政府や政府機関の委員会も似たようなもので、結局はガス抜きになり勝ちですよね。ある程度は必要だけど。
 ――そうならないような仕組みを作っていかなければならない。諮問委員会とか専門委員会を見ると、“結論ありき”なんですね。事務方が作った報告書を査読して、意見を言って、それで終わり。そういう仕組みを変えて、委員会の議論が政策の俎上に乗るようにしなくちゃならない。
浜口 新政権が掲げていいる「脱官僚」がどこまで実行できるか。それと担当が誰なのか分からないうちに下手に動いて、もし新政権がヨレちゃったらどうする、元も子もなくなるということも、ちょっと考えている。慎重になるのはそこのところ。
 ――IT担当が誰か、戦略室がどうなるかはともかく、だからこそ政策提言をすべきだ、というのがわたしの意見です。
浜口 それは検討させてもらいますよ。何もしないでいいとは考えていないから。JISAは記者の皆さんのように身軽に行動できないんですよ。タイミングと方法を考えないといけない。
 ――慎重になるのは分からないじゃないけれど……。
浜口 何といっても308議席。この数字は大きい。よほどのことがない限り、へたることはない。怖いのは分裂だけど、そのときはそのとき。向こう4年間は民主党中心で動くと見定めて、じっくりやっていく。動くときは動きますよ。
 ――例えば戦略室の直下にITビジョン委員会を置くとか、政・官・業の意見交換の場を作るとか、今日うかがいたいのはそれなんです。まず、情報サービス産業の売上高が20兆円というなら、いまさら振興策、補助金じゃないだろう、と思うんですよ。
浜口 わたしもそう思っている。いま必要なのは助成策じゃなくて、ユーザーのIT活用マインドを高める方策だと思います。例えば選挙や政党の活動にインターネットを使うとか、Webサイトで政策の案を募集するとか。それだけでずいぶん認識が違ってくる。
 ――インターネットで投票するなんていうのは無理としても、政策案を募集するのは米大統領府がすでに実施してますし。代議士になって3か月もすると、生活感覚を失ってしまう。
浜口 高齢者介護のことでも子育てでも雇用問題でも、国民の意見を広く集めることができる。
 ――アリバイ作りみたいな諮問委員会とかパブリックコメントなんかは止めたほうがいい。Webサイトでどんな提案が寄せられているか、誰でも見られるようにすれば、情報の開示にもなる。
浜口 そういうことが結果としてIT産業を支援することになるんですよ。国民の意識、企業の認識が変わる。実務経験がない人が数字をいじくっているような有識者会議も、あまり意味はない。いきなりレガシーだからダメ、っていわれても困る。社会保険庁のシステムにLinuxとリレーショナル型データベース(RDBMS)を導入しろ、なんていわれてもね。
 ――ゼロから作るんならそれでもいいけれど、これまでの資産を継承しなけりゃならない。それにRDBを入れる必要もない。電子政府でもよく似たことが起こってますね。オンライン申請だ、って言うんで、年間1,000件もない申請をオンライン化した。民間なら絶対にしない。